抗体療法
抗体療法について
抗体療法は、癌細胞の表面の受容体をカバーして成長ホルモンなど癌の増殖に関連するものをブロックする治療で、効果があり、副作用が少ない治療として注目されています。
成長因子をターゲットとした抗体療法は、癌細胞の増殖を止める目的で開発されました。癌細胞の表面には、細胞の増殖スイッチのEGFR(epidermal growth factor receptor:上皮成長因子受容体)が発現しています。
癌細胞が分泌する成長因子が癌細胞のこの受容体につくことにより、増殖のスイッチが入り、癌細胞が分裂を始めます。
この増殖スイッチに抗体で蓋をしてつかないようにします。増殖のスイッチを押させないのが抗体薬です。抗体薬を使った治療が抗体療法です。
抗体薬がない場合
抗体薬がある場合
抗体薬の種類
EGFRは、4種類あります。同じ癌種であっても違う種類の受容体をもっていることもあり、癌の一部を切除し、病理検査でEGFRを免疫染色、または遺伝子検査で確認して、一致した抗体薬を使用します。
- EGFR1
- EGFR2(HER2)
- EGFR3(BRAF、HER3、ERBB3)
のがん細胞の表面に受容体が発現しているため、抗体薬により、増殖が停止することが期待できます。
最近では抗体薬を使用していると耐性ができるメカニズムもわかってきています。
効果が少なく、副作用もあり、投与が可能期間も短いなどの欠点も多く、最大の問題点は正常な細胞に多く発現しているため、皮膚や粘膜などに酷い副作用があることです。
抗体薬の欠点
欠点1 定期的な投与が必要
長時間経過すると外れてしまいます。
欠点2 副作用がある
抗体という免疫物質を投与するため、風邪症状やアレルギー症状などのインフージョンリアクションを発症します。
インフージョンリアクションとは
薬剤投与中または投与開始後24時間以内に現れる過敏症などの症状の総称
欠点3 耐性が出る
3か月程度、または6回程度の投与で耐性が出てくるようになり、効きにくくなったり効かなくなります。
欠点4 治療費が高い
1回の治療で15万円以上することも多く、1か月では100万円以上もかかることもあり、効果のある患者さまを選定する必要があるが、なかなか進められずオーダーメイド治療ができていません。
癌の特異性が高い抗体薬は、悪性リンパ腫の多くは、Bリンパ球が癌化したため、CD20が発現しています。リツキシマブ:リツキサン®とオファツスマブ:アーゼラ®の抗体薬は、再発した場合や難治性の悪性リンパ腫に対して効果が期待できます。
腫瘍血管をターゲットとした抗体薬があります。VEGFR(vascular endothelial growth factor receptor:血管内皮増殖因子受容体)は、腫瘍内の血管に発現し、癌の血流を抑え、腫瘍に栄養を送らないことで効果がでるというコンセプトでした。
実際は一時的に血管はなくなりますが、その後、腫瘍血管は再生され、血流量が増えることがわかり、VEGFR抗体薬(ベバツスマブ:アバスチン®)は単独で効果はなく、抗がん剤との併用でもやっと差が出る程度で、費用は高く、医療費高騰を招いた薬として社会問題にもなっています。
新しい薬は、費用が高く副作用は少ないですが効果も限定なものが多く、同じ癌であっても効果がある場合とない場合があるオーダーメイド治療になり、治療費と患者さん一人一人の適合性の中で治療を選択していく、今までのマニュアル治療ではない時代になっています。
当院は、抗体薬、EGFR1のベクティベックス®、EGFR2(HER)のトラスツマブ、骨転移の抑制や予防にデノスマブ(ランマーク®)など採用しています。その他も患者さんの適合性により抗体薬を使用できます。